どりーむタイムズ
「ね、ねぇ斉藤君。さっき何してたの?」

 真田さんがこの雰囲気に耐えられなくなったのか、無理やり話しかけてきた。

 僕は、そんな会話に上手く返せるほど口が達者ではない。


「さっきって…、別に何も。つーか何してたか覚えてない。」

 僕は、無愛想に返答する。


 真田さんが、少し悲しそうな表情をした。
 僕はなぜか、胸の奥が少し痛んだような気がした。
 …何だろうか。この感情は。

「そうなんだ…。ここが、斉藤君のげた箱だよ。」
「分かった。」

 そういう当たり障りのない会話をしていたら、チャイムが鳴った。

「あ…ヤバい。斉藤君、行くよ。」
 そう言って、真田さんは僕の腕を掴んで走り出した。

「え?ちょ、ちょっと待てよ。」
「遅刻はダメー!!」

 話、聞こえてないか。


 その時、真田さんの表情が少し明るくなったような気がした。


 僕達は走って、2階の一番奥の部屋に着いた。そして、チャイムが鳴り終わった。

 その瞬間、真田さんはドアを開けて僕の腕を放した。

 そのドアの向こうは僕にとって、とても明るく、そして綺麗に見えた。
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