妖不在怪異譚〜唐傘お化け〜

飛んでいった日傘を追って、葉子は石段を足早に降りた。

…高いヒールの靴は、それだけでも歩きにくい。

時折つまずきそうになりながら、長いスカートの裾を持ち上げるように急ぐ。

やがて中段まで降りて、辺りを見渡したが、そこに白い日傘の姿はない。

「どこまで飛んでいってしまったのかしら。」

キョロキョロと周りを見渡したとき、

「お姉さん。お姉さんの傘はこれでしょう。」

どこからか、子供の声が響き渡った。

「え?。」

驚いて振り返ってみれば、彼女が降りてきた石段の上に、一人の少女が立っている。

…いまどき珍しい、和服を着たおかっぱ頭の少女。

その着物は青い鈴蘭の柄で、大人しげな彼女の雰囲気に合っている。

「これ、お姉さんの日傘でしょう。すぐの道端に落ちていたのを拾ったのよ。」

差し出したその手には、白い日傘が握られていた。

「あ…、ありがとう。」

受け取った葉子の顔を見て、少女はニコリと微笑んだ。

「良かったわ。これ、とても大切そうなものだったから。」

そのあどけない笑顔の中に、葉子は何か懐かしいものを感じていた。

見ているだけで心を和ませてくれる、懐かしい何かを…。
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