Slow Magic ―俺を変えてくれた人―
「なぁ!今日、夕方時間ある?彼女とお茶するんだけど、付き合って」
卓弥は、遠慮がちにそう言った。
俺は、珍しく真面目にノートを取っていたが、その手を止めて答える。
「いいけど、おごれよ!アイツも来んの?」
どうしてそんなことを言ってしまったんだろう。
アイツ・・・・・・
美亜。
アイツが来ても来なくても俺にはどうでもいいことなのに。
自分の発言に驚いていると、俺よりも驚いていたのは卓弥だった。
大きな目をもっと大きくして、俺をじっと見た。
それから、我に返ったように微笑んだ。
「あぁ、来る来る。また2人きりにしていい?」
「勘弁してくれよ。俺、女苦手だから。2人になると、緊張すんだよ」
乱れた髪を束ね直す。
男の癖に髪なんか伸ばしている俺を、あの人はどう思うだろう。
なぁ、母さん。
母さんなら、俺に何と言うだろう。
“男の子なんだから短くスッキリした髪型にしなさい”って俺の頭を突っつくのかな。
「どうかした?隆介」
現実に戻る。
俺は、ノートを閉じて机に顔をくっつけて目を閉じた。