Slow Magic ―俺を変えてくれた人―
「そのくだらねぇ車の方が邪魔なんだよ」
どうせ親からもらった金で買った車なんだろ。
外車なんて乗って、大学に来るんじぇねぇよ。
「すいませんでした」
俺のバイクに文句つけた男は、慌てて車に乗り込んだ。
エンジンもかけずに、車内で携帯をいじり出したので、俺は無視してバイクにまたがった。
ヴヴヴヴォン―
この音が好きだ。
安心する。
ひとりになれる気がする。
どこにいても何かが足りないような、誰かに支配されているような……
このバイクに乗って、風を感じている時だけは特別だった。
本当の自由を手に入れたような気がした。
本当の俺。
本当の自分と向き合える時間だった。
俺にはひとりが似合っている。
できることなら、ずっとバイクに乗っていたい。