記憶 ―夢幻の森―
「あぁ、有り難う。」
俺も礼を言う。
泉の精霊は、言葉を続けた。
『…異世界の子…妖精の子…貴方たちは自分たちの心に…もう少し…自由を与えてあげなさい…』
「………。」
俺とハルカは互いの顔を見合わせ、何も返せずにいた。
『…犬竜の子…貴方は素直な良い子ですね…』
コンはピクッと耳を反応させ、自分が褒められた事に驚いていた。
『…その素直な優しさで…己れの心を縛り付ける二人を…助けなさい…』
声を放つ度に、
泉の波紋は、きらきらと外へ外へ広がった。
俺たちの心を、
心の内の苦しみや哀しみを、
この水を通して、全て悟ったかの様に…
泉の精霊は、
『…ユピテルのご加護がありますように…』
そう言い残すと何も語らなくなった。
泉には、木々のざわめきが戻っていた。
『聞いたかッ!?俺、褒められちゃったッ!!俺スゲェなッ!』
「………。」
喜び飛び回るコンに目もくれず、俺は泉を見つめたままだった。
きっと、意味深い…。
「…キース…」
不安そうなハルカの瞳が、俺を覗き込む。
その瞳に映る俺も、同じ顔をしていた。
「…行こう、ハルカ。」
俺が差し出した左手を、
おずおずと遠慮しがちに右手で握った。