記憶 ―夢幻の森―

コンは自分の翼を羽ばたかせ、宙を降りてくる。


ワンッ!
『飛べ!ハルカッ!』

「…怖いよ…」

ハルカは飛ぶのを躊躇していた。


…妖精のくせに飛べない…

と、そう人に何度言われ続けてきたのだろう。

ただ俺に向かってジャンプするだけ。
それすら、
難しくさせてしまう程に、ハルカの心は弱っていた。


「…怖がらなくていい。ちゃんと受け止めるから…勇気を出して…」

優しく、ハルカをなだめた自分の言葉に俺ははっとした。


――…心に自由を与えて…

俺の頭の中で、先程の泉の精霊の言葉の意味と、繋がった…。

そう気付いたら、
勝手に口は動いていた。


「…怖がるな…。ハルカの、寂しい心も哀しい心も…、俺はちゃんと受け止めるから…。おいで…?」

「…キー…ス?」

暗くて、ハルカが今どんな顔をしているのか見えない。

コンの翼の音だけが、周囲に響く。


「…ん…、飛ぶよ…?」

ハルカが土を蹴る音が聞こえて、

俺は半歩のけ反りながら、

彼女をつかまえた――。


ぎゅっ…と、

俺の首を抱き締める腕は震えていて、

そっ…と、
抱き締め返した。

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