記憶 ―夢幻の森―
進むごとに緑は濃くなり、
始めは道の横に見えていた湖の水面も、今はもう見えない。
『…キースぅ…、合ってんのかぁ?』
コンはちょこちょこと歩きながら、そう俺を見上げた。
深い森…。
道が合っているのか、
湖をちゃんと迂回出来ているのか、もう方向すら分からなくなっていた。
しかし、幸いにもあれ以来分かれ道はなく、戻ろうとすれば戻れる。
「もう少し、行ってみよう…。」
「コン、あたしがっ…だっこして…あげよっかっ…?」
ハルカも、少し息を切らせている。
ハルカの体力が一番心配だ。
結構歩いたからな…。
『大丈夫だいッ!』
コンはそう吠えると、先へと駆け出した。
「…おいっ…」
俺の呼び掛けも虚しく、コンは先へ先へと駆けていく。
追いかける気力もなく、俺はハルカに合わせた歩調で歩いていた。
ワン、ワンッ!
『…キースぅ~!出口っぽぉい~ッ!』
少し遠くから、コンの精一杯な大声が聞こえる。
「…森のっ…出口?」
「やっとだな…。」
俺たちは、力なく笑い合って、出口に向けて少し足を早めた。