記憶 ―夢幻の森―
ワンッ…
『ほら、あの人だぞッ!?』
コンの鳴き声に、女性がピクッと反応を示した。
コンの言う通り、先程の分かれ道まで進むと、平らな岩に女性が腰かけている。
年齢は、俺たちより少し上くらいだろうか?
少女と呼ぶには大人びて見えるし、大人の女性とも断言できない。
か細い白い指先で、茶色の髪を耳にかけ、俺たちが近付いて来るのを注意深く見つめていた。
「…こんばんわ?お姉さん、一人?怪我してるの?」
ハルカが恐る恐る遠慮しがちに笑顔を向ける。
「…こんばんわ…、さっきのワンちゃんがお友達を連れて来てくれたのかしら?有り難うね?」
女性はそう微笑む。
『…ワンちゃん…?』
コンはそう呼ばれた事に不服そうだった。
ハルカは返事の物腰の柔らかさに安心して女性の方へと歩を詰めた。
「…怪我…、足だね?」
「えぇ、ここに来る前の洞窟の段差に気が付かなくて…。足をひねってしまったようなの…。」
「痛そう…」
ハルカが顔をしかめた。
女性の白いワンピースの腰から下は、土に汚れていた。
裾から白く伸びる左足には、擦り傷。
赤い血が滲む。
そして足首は、彼女が言うように赤みを帯びて腫れていた。