記憶 ―夢幻の森―

「お姉さん、一人なの?」

「そうなの。困っていたところ…。貴女お名前は?ワンちゃんも貴女の子?」

コンは女性の目の前まで飛んでいった。


ゥワンッワンッ!

『犬じゃねぇッ!!この翼が目に入んねぇのかッ!?』


パタパタと背を向け、黒い翼をアピールするが、彼女はきょとんとしていた。


「…ワンちゃん、怒ってるのかしら?私、何かしたかしら…」

そう首を傾げる。

「…?」

『…むッ!鈍感か!?天然なのかッ!?』

ハルカも彼女の様子を理解出来ずに、首を傾げ俺を見る。


ジャリ、ジャリ…

そうやって、俺はわざと音が出る様に彼女に近付いた。

ビクッと彼女の肩が震える。


「…もう一人、お友達いるの?」

彼女はそうハルカに聞いた。


やはり…。

さっきから俺は彼女から見える範囲にいた。
しかし、声は出していない。

コンが目の前で翼をアピールしても、犬竜だと分からない。

音に反応し、視線は向けるが…


「あぁ、俺はキース。先程からここに…。貴女は目が…」

俺が言葉をそこで濁すと、彼女は微笑んでこう言う。


「えぇ、見えないの。」

岩の後ろに隠れていた白い杖を手に持ち、俺たちに見せた。

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