記憶 ―夢幻の森―
「…む、虫がしゃべった…」
ハルカはしっかりと俺の袖を掴む。
「あなた…、いや、あなた達は…?」
俺は人の表情を作る青い虫達を見据え、そう問う。
『…我はこの湖の精。体は湖の底深くに眠る。この虫達は我が意思の化身なり…』
「湖の精霊か…」
『…汝らの事は地下の水脈を通して、泉の精から伝えられている。汝らは何を望む…?その意思を示せ…』
意思を…?
この光景にあっけに取られる俺たちをよそに、エマは堂々たる態度で言葉に示した。
「私はあの山に入ったはずの恋人を探しに…!あの山への道を示して欲しい。」
『…汝らは…?』
青い光はその表情をぴくりとも変えずに、俺たちに問う。
ワンッ!
『俺はハルカの笑顔を守るんだぞッ!』
「…俺も同じだ。エウロパの涙で、ハルカの羽根を治したい。道を示してくれないか?」
意思を示せというのなら、いくらでも示そう。
俺は青い表情をじっと見つめたまま、ハルカの手をぎゅっと握りしめた。
『…他人の為に自分をも犠牲にするだけの覚悟がある、と言うのか…?』
「あぁ…、ある!」
『…少女本人の意思は、揺れているぞ…?』