記憶 ―夢幻の森―
俺はこの心とは裏腹に、何とハルカに声を掛けたら良いものか戸惑っていた。
下手に言葉を掛けては、ハルカの哀しみを増やしてしまいそうで怖かった。
『…よい、分かった…』
俺のそんな心を悟った様に、湖の精霊は静かにそう言った。
「……?」
俺たちは自然とハルカに集まっていた瞳を再び青い光へと向けた。
『…盲目の少女、異世界の少年、犬竜の子、…汝らの強い意思に免じ、道を示そう…』
そう精霊は青い光を柔らかに強めた。
その表情は、微笑んでいる様に見える。
俺たちから自然と安堵の溜め息が漏れる中、ハルカだけはその堅い表情を変えなかった。
湖の精霊の化身である青い虫達が、その場から散りながらその姿を変えていく。
ぐるぐると円を描きながら、湖面に青い輪を作った。
虫達に囲まれた湖面が、
白く光を放つ。
『…この水面に一人ずつ潜りなさい。水脈を利用し、エウロパの山の中腹に通そう…』
白く光る湖面から、上へ上へと声だけが響いて俺たちに届いた。
「…一人ずつか。」
まずは、俺から行こうと一歩前へ出た。
「…あたしが、先に行くっ!」
ハルカはそう俺を止めると、急に瞳に力を宿した。