記憶 ―夢幻の森―

「…ハルカ!?」

急に積極的になったハルカに驚きの色を隠せずにいた。


あの山の中腹へ…、
出た先に、どんな状況が待っているか分からない。

俺はまだ遠く見えるエウロパの山とハルカに、交互に目を泳がせて言った。


「…俺が先に。危険かもしれない。」

しかし、ハルカは強い瞳を俺に向けたまま、静かに首を振る。

そして、

――ちゃぽん…

そう湖に足を進めた。


「ハルカ…」

その足を止めようと伸ばす俺の腕を、横にいたエマが止めた。
俺は反射的に彼女を見た。


「…行かせてあげて?『前へ』進もうと、自分の心と戦っているのよ…。」

「………。」


そう言われてしまっては、止める事は出来ない。

俺は眉間にしわを寄せ、腹の底から込み上げる不安と戦いながら、ハルカを見つめる事しか出来なかった。


ゥワンッ!
『じゃあ、次は俺が行くッ!キース、たまには最後なッ?』


コンがそう明るく心を踊らせながら吠える内に、ハルカは湖面に消えた。


「……ぁ、あぁ…。」

『じゃぁ、後でなぁッ!』


コンもそう吠えると、大きく息を吸い込み水面へと消えていった。


「…エマ、一人で行けるか?」

「力を感じるから、大丈夫よ。」

< 125 / 221 >

この作品をシェア

pagetop