記憶 ―夢幻の森―


こんなにも…
穏やかなのに、生命力は奪われているというのか…。


元々、小瓶は三本。

一本は、エマの怪我に。
そして、もう一本は、先程のハルカの怪我に…。

もう…、
これしか残っていない…。


ワンワンッ!
『キースッ、全部飲ますんだぞッ!一滴も残しちゃダメなんだぞ!』

「あぁ、分かった。」

俺は、意識のないハルカを見つめる。

どう飲ませるか、だ。
口から漏れてしまったら…
もう、替わりはない。

しかし、ハルカの口に露を運ぶスプーンすら、ここには道具がないのだ。

俺は、小瓶を持つ右手に力をグッと込める。


『何してんだッ!早くしろよ、キースぅッ!』

コンがそう急かす。

そうだな…。
躊躇っている場合ではない。

一刻を争うんだ。


俺は、小瓶を…
自分の口元に運んだ。


『んな!?はわわわ…何してんだッ!バカぁ!』

そう騒ぐコンを無視し、「露」を自分の口の中に半分含んだ。

ほんのり、甘い…

口に含んだだけで、
その甘味は舌の上から、俺に伝わってきていた。


俺は、
ハルカの横たわる体の上に股がる。


『…ま…まさかぁぁ…』


――その「まさか」だよ、コン。

そう心の中で呟いた。

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