記憶 ―夢幻の森―
これで…、いいんだ。
俺は少し寂しく感じながらも、そう納得しようとしていた。
ハルカは何も知らないまま、
いつか…、
本当に好きな相手と、
「初めてのキス」をする…。
この事は、
俺だけの胸に残れば、それでいい…
『…ただッ、かわりに俺の気持ちを叫んでもいいかッ?』
コンはそう首を傾げた。
コンが秘密を守ってくれる事に安心して、俺は頷いた。
「あぁ、どうぞ。叫ぶくらい…、…え?」
叫ぶ…?
コンは、すぅっと息を吸い込んだ。
「ち、ちょっと待…」
アオォーン…!!
『…キースの~、バカぁあぁぁぁぁッ!!』
コンの叫び声は、
風に運ばれて周囲へと響いてしまった。
シーッ!
と焦って口元に手を当てた。
エマを起こしてしまうかもしれない。
加えて、せっかく追い払った狼たちの事も頭を過る。
「バカ」で結構…
コンはハルカの唇を俺に奪われた事に、やはり不服そうだった。
「…ぅうん…」
そうエマが声を漏らし、俺たちの視線はエマに向いた。
ほら、見ろ…
と、俺はコンを軽く睨んだ。
『ぁ。起こしちゃったぁ?』
コンは白々しくそう鳴いた。