記憶 ―夢幻の森―
俺は口元に手を当てたまま、エマの様子を見守る。
「…ぅん…、ユ…ラ…。行かない…で…」
エマはそう寝言を漏らし、再び眠りへとついた。
『おぉ…、起きなかったみたいッ!うははッ!』
コンが俺の顔を見ながら、ニヤニヤと笑う。
こいつ、わざと…か…。
先程まで、落ち込んで小さく丸まって泣いていたのは…、
どこのどいつだったかな。
まぁ…
コンも元気を取り戻したようだし、良しとしよう。
『…ん~、ユラ…って誰だぁッ?』
コンはエマの顔を眺めながら、そう首を傾げる。
「…エマの言っていた恋人の名かもしれないな…。」
『おぉ、そうだった。コイビト探すんだった!』
俺はコンの言葉に頷く。
時間が…、
ないかもしれない。
じぃさんは、奇跡が起こる日を「明日の晩」と言っていた。
今、どのくらい時間が経った?
どれだけ時間が残ってる?
俺は、あまり代わり映えのしない紺色の夜空を見上げる。
夜なのか、朝なのか…
慣れない俺には、全く分からない。
しかし…
二つの月は、
お互いに引き合っているかの様に確実に近づき、
重なりかけていた…。