記憶 ―夢幻の森―
15・残された時間

15・残された時間


エウロパの山―――、

その頂上を目指して俺たちが進む道は、
いつの間にか砂利道へと姿を変え、傾斜が傾くほどにゴロゴロとした岩が増える。


この世界に来てからというもの、ずっと傍にあった、緑の光を降らす木々たちの存在。

彼らもまた、傾斜を増すごとに姿を消していき、
俺たちはまた一つ…、

光を失った。



ハルカの、

――「お気に入りのランプ」。

赤い硝子のランプは、
割れてしまっていたのだ。

出発の際にランプを探す俺に、コンが悲しそうにそう告げた。

狼に襲われ、ハルカが腕に怪我を負った際に落としてしまったらしい。

コンの示す場所には、赤い硝子たちの原型を留めない姿。
地面の上で、月の光を浴びてきらきらと輝いていたのだった…。



紺色の空に、二つの月。

それらは、どんどんと俺たちの頭上へと距離を縮める。

ランプや木々の降らす光なしでも歩ける程に、月の放つ光は強さを増していた。



「…エマッ、…大丈夫か…?」

はぁはぁ…と荒ぶる息を抑えながら、自分も足元の岩によろめきながら、俺は横を進むエマに声を掛けた。

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