記憶 ―夢幻の森―


あの日…。

あのまま、
扉をくぐらずに…

夢の狭間で、
ずっと過ごしていたのなら…

今頃、
俺はどこにいたんだろう。
何をしていただろう…。


きっと、
心からの笑顔なんて忘れたまま、

…独り。


そう考えると、
堪らなく…寂しい。


暗い深いところで、
固く閉ざされていた…、

俺の心の扉。

その鍵を持っていたのは、
あの二人で。


その扉を開いたら…

君に逢った。



きっと、知らずにいたよ。
いや、忘れていたんだろう。

誰かを、「愛する」という…
生きる上で、
とても大切な事…


きっと、
君に出逢えていなかったら、

あの淋しさに、
あの哀しさに…
今も捕らわれていたまま?



君に、

いや…
君たちに、出逢えた事に。

「感謝」――。


君と、
この「時」を過ごせた事に、

「有り難う」を――…



俺は笑みを溢したまま、
ハルカを背負う手にぎゅっと力を込めて、

この「幸せ」を、
この「残された時間」を…、

噛み締めていた。


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