記憶 ―夢幻の森―
コンはハルカに聞こえないよう静かに言った。
白い犬竜は、俺たちの決断を待つかの様に、威嚇しながらもその場を動かない。
ワゥ…
『…俺がまた力を解放しちゃったら、ハルカはどうなる?』
「駄目だ、コン。解放するな…」
『…でも…』
どうしたらいい?
そうコンは俺を見上げた。
これ以上…、
ハルカの体に負担はかけられない。
花の蜜を手にする前に、
もしかしたら…
手遅れになってしまう。
――グルル…
コンの属性は、火。
アイツの口元から、しばし漏れているのは、
「冷気」。
あの白い霧も、自ら作り出した物だろう。
相性も悪い。
決着には時間もかかりそうだった。
ハルカの体力が、もたない。
「俺の名は、キース。戦う前に話を聞きたい!」
俺は白い犬竜を見上げて叫んだ。
――グル…
『あ、アイツ、名前を名乗ってる。…すぷりう、おりべ…?んぁ?よく分かんねぇ。』
コンが顔をしかめる。
名前など、
この際どうでもいい。
「戦う他に道はないか!?」
――ギャァ…!
奴は、
翼を羽ばたかせ、
俺たちのすぐ横に、氷の塊を降らせる。
「――ッ!!」
『きゃぁあぁぁッ!?』