記憶 ―夢幻の森―
「…オリぺ、下がりなさい。私が、判断を下します…」
そう言葉を発するエマの、何も映す事のないはずの瞳。
その瞳は笑顔とは裏腹に、
冷ややかなものだった。
それは、鳥肌が立つ程に…
「…恋人を探すと…、あれは嘘だったのか!?」
俺の言葉に、エマはクスッと笑った。
「…彼は、私の瞳を治す為にこの山へ行く、と言った。…そういう口実で…、私の元から去った。戻っては来なかった…」
見えているのか、いないのか…、
遠くを見つめる。
「だから私も彼の後を追って、この山へ来た。彼を探しに…。…あながち嘘ではないのよ?」
ふふふ…と、また笑う。
ワンッ!
『何言ってるか、全然分かんないんだけどッ!』
そう吠えるコンの顔の前に、「しっ…」と手を出し、俺は静聴を続けた。
「…彼を探してくれると、言ってくれたわね…?」
エマは、ハルカの方を見た。
「う…、うん。」
「…有り難う。でも、御免なさい。それは大昔の話…。彼は、もう見つかっているのよ…」
エマは、
空を見上げて、
上を、指差した…。
「――!?」
俺たちも、その指の先を見上げる。
白い惑星が、二つ。
「…彼は、月になったの。」