記憶 ―夢幻の森―
俺は、セイジさんの言葉を思い出していた。
――第15の月と16の月が重なる時、
…すなわち、
彼女の想いが彼に通じた時、
その幸せのお裾分けとして奇跡が起こる。
…そういう伝説。
伝説は、事実だったわけだ。
きっと、
あの蕾の中には…。
逢える日を待ち焦がれた、
エマの『涙』が…、
…蜜が、
零れるまでに溜まっている。
大切な、想い――…
「…人々は、私欲の為に私の『涙』を求めた。私から…ユラを奪っただけに留まらず。」
あぁ…
エマは、ただ…
彼だけを想って、
静かに「その時」を待って居たかっただけなのにな…?
「…キース君、貴方も欲しいのでしょう…?ハルカちゃんを救う為に…」
「あぁ…」
俺は複雑な想いで目を伏せた。
いつの間にか下ろしていた剣を、ゆっくりと躊躇しながら構え直す。
エマへ向けて…。
間違っている。
そう感じながらも、
…そうするしか、無かった。
「――やめよう!?キース。そんな大事な物…」
ハルカは俺にそう必死に訴えたが、
俺はハルカを見つめたまま、
静かに、首を横に振る。
「…さぁ、最後の試練です…」
エマは、
そう冷ややかに微笑んだ。