記憶 ―夢幻の森―
俺は、唯一この中で知っていそうなオリぺを見た。
彼女もまた大きな瞳をぱちくりさせて、首を傾げていただけだった。
――…サァ…
俺たちに、風が吹く。
ハルカの茶色い長い髪が、柔らかに宙に舞う。
静まっていた空気が、
気が付けば動き出していた。
『…ふふふ…』
涼しげな風が、
俺たちの元へそんな笑い声を運んでくる。
「…エマ…?」
『…今は、羽根を治している最中…。ハルカちゃんがお家に着く頃には治るでしょう…。帰ってから、親御さんにお聞きなさい…』
「…やっぱり、エマだ!…あれ?どこ…?」
ハルカはそう声をあげながら周囲を見回す。
しかし、エマの姿は無かった。
――キュゥ。
オリぺが立ち上がり、崖の上を見て尻尾を振っている。
そこには、一輪の…
閉じかけた花。
「―…!?」
『…本当は今、私が教えてあげられればいいのだけど…』
エマの言葉から、
俺たちの胸に不安が過っていた。
「エマ、どうしたの…?大丈…夫…?」
サァ…
『…心配してくれているのね。大丈夫…、少しお休みするだけよ…』
エマはその体を、弱々しく風に揺らした。