記憶 ―夢幻の森―
あの世界を忘れる事が怖くて、目覚めていないから。
俺はそれを言わなかった。
様子がおかしい俺を察してか、じぃさんもそれ以上は聞かなかった。
『…さぁ、すっかり話し込んでしまったのぅ…。お前さん、これからどうするのじゃ…?』
「…あぁ…」
どれくらい時間は経ったのだろう。
地面に接した俺の尻は、若干の痛みを伴っていた。
いつ帰れるかも分からない。
この場に留まっても仕方ないだろう…。
「…朝に、明るくなったらここを出よう。」
『…あさ…?明るく?』
じぃさんは枝をしならせた。
『いつまで待とうと、明るくなどならんぞ…?』
「…は…?日は昇らないのか?」
『ここは、いつもこの明るさじゃよ?』
嘘を言っている様子はなかった。
日は昇らない。
この世界は、暗いまま?
俺は再度周囲を空を仰ぎ見る。
なるほど…
木々からは緑色の光。
花からは和かな光。
ぼんやりと暗い空からは、
星々と、幾つもの月。
白い月。
青白い月。
赤みがかる月。
その全てがぼんやりと地面を照らす。
静かな周囲からは、
風の音。
ざわつく葉の音。
虫や鳥の声…