記憶 ―夢幻の森―
「…いい所だな…」
俺はじぃさんに笑顔を向けると地面から腰をあげた。
『行くのかの…?』
俺は深く頷きお礼を述べた。
「…どっちに行けば人のいる街に出る?」
俺は右か?左か?と指をさして道を聞いた。
『ふむ、左へ森を抜ければ妖精の棲む里に出るだろう。』
「そうか、有り難う。」
行ってみるよ、と片手をあげて挨拶した。
俺がじぃさんに背を向け歩き出すと、
――ザッ…
『…お前さん…』
じぃさんは再び俺の背に風とともに話しかける。
俺は振り返った。
『お前さんの名は…?』
話に夢中で、名乗っていない事に今になって気が付く。
俺は苦笑した。
余裕が足りないな…。
「あぁ…、失礼した。俺の名は、キース。」
『キース…、里では異世界の事は言わん方が良いぞ…?』
なぜ?と俺は首を傾げる。
『彼らにとっても、ここがまた普通…。簡単には受け入れまいて…』
「あぁ…、では、記憶喪失、とでもしよう…。」
じぃさんは、また来いよ、と送り出した。
俺は歩き出す背を向け、手をあげた。