記憶 ―夢幻の森―
左へ、左へ…
見慣れない小さな細い筋肉すら未だついていない足で、俺は森を進んだ。
草を掻き分ければ、尻の青い虫が舞う。
何度も何度も、樹の根に足を捕られる。
「あぁ、悪い…」
「ごめんよ…」
皆が話すわけではないのに、この樹たちもいずれはあのじぃさんの様に意思を持つのだと考えると、自然と声が出た。
次第にぽっかりと薄暗い空の面積が増した。
そろそろ、
森を抜けるか…?
――サァ……
何にも遮られることを知らない、気持ちの良い風が俺を吹く。
「…あぁ…」
なんと…
なんと美しい光景。
俺の目の前には、柔らかに光輝く花畑が一面に広がっていた。
その中には、幾つもの大きな水溜まりが水面を星に照らされて輝きを放つ。
「…水溜まり…?」
あれを何と表現するのが正しいのだろう。
そんな事を考えて一歩も動けずにいた。
『あれは…、あれは花たちの露…』
どこからともなく、そんな声がした。
俺はびっくりして声の主を探す。
俺が手をかけ、半身の体重を預けているこの樹。
声の主はどうやら最初から隣にいたようだ。
「…露…?」
俺は、すまない、と預けていた体重を自分へ戻しながら訪ねた。