記憶 ―夢幻の森―
「…人間…」
彼女は一瞬驚いたように息を飲んだ。
じっくりとまじまじと、
俺の全身を上から下へと、彼女自身をランプとともに動かしながら眺めていた。
「…森の主はあなたを通したの?」
「…あぁ、話はしたが…」
俺は一概に肯定も出来ずに、両手を肩まであげた。
「…ふぅん…」
彼女はそれだけ言うと俺から目を離し、水溜まりの横に腰を下ろした。
…え…
それだけか?
何も聞かないのか?
彼女は静かに、
「…今日も少し貰うね?」
と水面に話しかけ、ポケットから取り出した小瓶に花の露をすくい上げた。
「…俺は…キース。近くにいってもいいか?」
俺が彼女を伺いながら恐る恐る名乗ると、彼女は意外にも笑顔で答えた。
「いいよ?あたしはハルカ!そこの里に棲んでるの。」
俺は少しほっとして彼女の横に腰を下ろした。
ふと水面から彼女…ハルカに目を移すと、ハルカは屈託のない笑顔で俺を迎えた。
「…あ…その、あそこに棲んでいるって事は妖精なのか?」
「…まぁ一応ね。」
一瞬、笑顔が曇った気がして言葉を探したが、ハルカは笑顔を作り直して言った。
「あなた、人間なんでしょ?何しに来たの?この露が目的?」