記憶 ―夢幻の森―
「…あ…いや…」
目的を聞かれ戸惑う俺に構わず、ハルカは水面を見つめて話し出す。
「この露は、怪我や病気に少し効くからね~?たまに向こうの人間の里からも採りに来る人いるらしいよ~?」
「そうなのか…」
「…え?知らないの?何しに来たの?」
俺は返答に困った。
ハルカの笑顔が消えていく。
ハルカは立ち上がり、一歩俺に距離を取った。
そして、
両手で震える肩を抱き締めて、
「まさか…羽根…!?」
そう言うと怯えた目で俺を見つめた。
…羽根…?
何の事か分からずに、ハルカをぽかんと見つめた。
「…あなた、良い人間じゃないの!?」
まるでこの世の終わりといった表情で青ざめていく。
「…いや、俺は…その、記憶喪失で。…羽根…?」
「記憶…喪失…?」
ハルカはしばらく俺の様子を疑いの目で見ていたが、やがて嘘ではないと信じたのか、ふっと力を抜き再び腰を下ろした。
…まぁ、
記憶喪失は、嘘なのだが…。
少し胸は痛んだが、羽根に関しては全く分からなかった。
「…羽根とは?」
ハルカはちらりと俺を見てから水面を見つめる。
今度は、沈んだ瞳で。