記憶 ―夢幻の森―

そう恐縮する俺の目の前で、
ハルカも地面へと目を伏せていた。

羽根という言葉に、えらく敏感に反応するハルカの表情には影が差す。


何か…、過去に恐い目にあったのか?と聞こうとした俺の視界に何かが映る。


ワンッ…ワンッ…

小さな黒い影が、そう吠えながら遠くから俺に向かってくるのが見えた。

周囲の青い光の虫たちが、一斉に逃げ惑う。


「…ぁ…。」

「何だぁ!?」


近付いて来る黒い影は宙を舞い、俺の胸に足蹴を喰らわせて…

俺の顔は苦痛に歪んだ。


「…ダメよ、コン!止めて!」

ハルカが黒い物体を押さえつけ、自分の胸に抱いた。

俺は自分の胸を擦りながら、眉間にシワを寄せてその正体を確認する。


ワンッワンッ!

『ハルカに近づくなよぉっ!人間め!』

その生き物は、ハルカの腕から逃れようと、ジタバタしながら俺に悪態をつく。
そんな彼をハルカは一生懸命止めていた。


黒い毛並みに、黒い尻尾。
鼻と手足の先、それから暴れる際に見え隠れする腹は茶色。

ハルカに負けないくらいのクリっとした意思の強い目。

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