記憶 ―夢幻の森―

その鳴き声から分かるように、一見は犬のようなのだか…。

背には黒い『翼』のようなものがある。


「……犬、…か?」

「ううん、犬竜!知らない?」

俺に飛び掛かろうとする彼と格闘しながら、ハルカが言った。


「…いぬりゅう…」


黒い翼は、そう言われればコウモリのような形をしている。
可愛らしく垂れる両耳の上には、左右に薔薇の棘ほどの小さい黒い角らしき物も見えた。


俺がこの生き物に熱心に視線を送っていると、


『何見てんだよぉ!』

と、ますます怒った。


「もぅっ!コン!!キースは安全だよ!」

彼は未だ暴れていた。
俺はこれ以上逆なでしない様に見守るしかない。


「…大人しくしないと御飯あげないよ!?」

そうハルカが怒鳴った瞬間、
彼はピタリと静止した。


『それはヤダ。』

そう即答して、黒い尻尾を地面へ垂らした。


「じゃあ、大人しくする?キースはお友達だよ?いい?」

『………。』

彼は不満そうにハルカを見つめたまま少し考えて、
しゅんとしながら、


『……わかったよぉ。』

とぽつりと呟いた。


< 33 / 221 >

この作品をシェア

pagetop