記憶 ―夢幻の森―
その鳴き声から分かるように、一見は犬のようなのだか…。
背には黒い『翼』のようなものがある。
「……犬、…か?」
「ううん、犬竜!知らない?」
俺に飛び掛かろうとする彼と格闘しながら、ハルカが言った。
「…いぬりゅう…」
黒い翼は、そう言われればコウモリのような形をしている。
可愛らしく垂れる両耳の上には、左右に薔薇の棘ほどの小さい黒い角らしき物も見えた。
俺がこの生き物に熱心に視線を送っていると、
『何見てんだよぉ!』
と、ますます怒った。
「もぅっ!コン!!キースは安全だよ!」
彼は未だ暴れていた。
俺はこれ以上逆なでしない様に見守るしかない。
「…大人しくしないと御飯あげないよ!?」
そうハルカが怒鳴った瞬間、
彼はピタリと静止した。
『それはヤダ。』
そう即答して、黒い尻尾を地面へ垂らした。
「じゃあ、大人しくする?キースはお友達だよ?いい?」
『………。』
彼は不満そうにハルカを見つめたまま少し考えて、
しゅんとしながら、
『……わかったよぉ。』
とぽつりと呟いた。