記憶 ―夢幻の森―
ハルカに体を放してもらった彼は、ちぇ…と不満そうだ。
大人しくパタパタと背中の翼を羽ばたかせ、俺の前の宙で止まる。
「俺はキース。よろしくな?」
『俺はコン。』
俺が差し出した手の先に、ポンッと肉球を乗せた。
その光景を頷きながら見守っていたハルカは、満足そうにコンの頭を撫でた。
「よし、良い子!」
コンは少し嬉しそうに尻尾をばたつかせたが、俺の視線に気付くとプイッと目を逸らした。
仲良くなるには…、
時間がかかりそうだ…。
「犬竜って?」
「これ。卵から生まれるの。」
『これ、って言うなよぉ!』
卵から…
不思議な生き物がいるものだな。
俺はコンを撫でようと、手を出す。
触ってみたかった。
『小さいからって馬鹿にすんなよな!俺の爪は痛いんだぞぉ!』
そう言って、猫のように爪を出した。
確かに、黒い爪は俺の知る犬と比べれば鋭く見える。
引っ掛かれれば痛そうだ。
俺の手は止まった。
コンはそんな俺に得意気になって、
『俺は、口から火も出すんだからなっ!』
と、俺に当たらない程度に軽く火の渦を出して見せた。