記憶 ―夢幻の森―
カオスの泉。
俺にとって、
大切な想い出の場所…。
そこには、いつも通りの光景があった。
眩しい日射しを浴びる泉の水面は、きらきらと輝く。
その周囲では、草花や木々が青々と茂り、岩間から抜ける風に吹かれては揺れる。
そして、
俺の記憶の断片が、
溢れる緑と水面の中に、彼らを映し出すんだ。
『キースぅ~…アズがイジワルいうの~…』
そう俺に擦り寄る、幼い女の子。
その瞬間、俺は白い狼へと姿を変えていた。
『アイリは弱虫だなぁ…。だからアランにもからかわれるんだぞ~?』
水面から顔を出し、笑顔でそれを見つめる男の子。
その微笑ましい懐かしい光景に、俺の頬がゆるむ。
「ふふふ…あまりアイリを苛めるなよ?アズ。」
いつか…、
ここで言った言葉。
俺は、それを繰り返した。
『いじめるなって!』
『いじめてないって~…』
そう男の子はちゃぽんと音を残し、水面へ消えた。
女の子もまた、俺の腕に温かなぬくもりを残したまま…
消えた。
「……あぁ…」
これは、
俺の記憶の断片。
彼らは、
もう…、いない。
ふっと、人の姿に戻った俺は一人、目を伏せた。