記憶 ―夢幻の森―
翌日――、
この里には『学校』と呼ばれる場所があるらしく、ハルカは渋々家を出た。
魔法や勉学を学ぶ所だそうだ。
俺はセイジさんに導かれ、教会の聖堂の椅子に腰掛け、本を開いた。
本の背表紙には、
『ユピテルの神話』――
昨夜、セイジさんが言っていた本だ。
どうも、この世界の教会で崇める神というのが『ユピテル』らしい。
教会の奥の書庫にはこれに関する本が数えられぬ程に並んでいた。
その中から、一番理解しやすい本を彼は選んでくれた。
他の物に比べ厚さは薄く、
多分…子供向けの本なのだろう。
『ハルカも同じ本読んでたぞッ!』
俺の足元にまとわりつくコンがそう言っていた。
『…つまんねぇな、遊ぼうぜ?』
「あぁ、あとでな…?」
俺はページを開き続ける。
『…ま、…まだかッ!?』
「…あぁ、もう少し…」
ちょこちょこと、あっちへこっちへ落ち着きのないコンが、何度も俺の所へ来ては上目遣いでそう聞いた。
「………。」
本を一通り読み終え、ふと足元を見ると、退屈で堪らなかっただろうコンは体を丸め眠りこけていた。
ふっ…と目を細め、やっと静かになったコンを起こすまいと、静かに本を閉じる。