記憶 ―夢幻の森―
厚さも厚さなので、それほど時間はかからなかった。
内容は予想通りの子供向けで、難しくはない。
この世界の情報を持たない俺には最適だったろう。
ユピテルとは、
この世界を創った、
『全てを司る神』とされ、
どれほどの偉業を成し、どれだけ偉大であるかが前半に記されていた。
人々に恵みを与え、
疫から守り…
と簡単にではあったが、本来の書にはもっと素晴らしい様々な偉業が記されていることだろう。
しかし…、
神話は、悲しい内容だった。
ユピテルは、
その偉大な力を持つ故に、
自分の欲や感情、邪念を恐ろしく感じた。
自分自身が、
いつか世界を滅ぼしてしまう…と。
それを恐れ、
彼は自分自身の余計なモノを封印する。
そして、
夜空に浮かべた。
自分と切り離し、
しかし寂しく感じ…、
自分の目の届く範囲に、
いつでも眺められるように…
それは『月』となった。
そう…、
迷いの森で会ったじぃさんも言っていたが、
この世界には、
第16まで『月』がある。
その一つ一つが、
『彼の心』なのだ、
という話だった。