記憶 ―夢幻の森―
「あぁ、エウロパの奇跡の場所…。伝説だよ?」
セイジさんは、書庫で本から顔を上げてそう言った。
「んー、第15の月と16の月が重なる時、…すなわち、彼女の想いが彼に通じた時、その幸せのお裾分けとして奇跡が起こる。そういう伝説。」
「その伝説は、信じられないものなのですか?」
俺がこの地に訪れる『予言』とやらを素直に信じ、俺を受け入れてくれた人だ。
非現実には慣れているだろうに、彼は首を傾げた。
「牧師の立場上、ある!祈りましょう…と言いたいところなんだが、正直なところ実際は分からないなぁ。大昔の事だからね…」
「そうですか…」
ワンッ!
『…パパッ、インチキ牧師だな!』
俺が肩を落とす中、セイジさんに伝わらないのを良いことに、コンはそうふて腐れて鼻息をあらげた。
伝わらないと分かってはいても、悪態をつくのはやめて欲しいものだ…。
少し、焦る。
「私たちがあんな予言の話をしたものだから、…ハルカを救おうとしてくれているんだね…?」
「えぇ、何か出来る事がないかと…」
「有り難う…、キース君。」
セイジさんは悲しそうな顔で、懸命に笑顔を作った。