記憶 ―夢幻の森―
『そうか…、ハルカをな?…花畑の、露の話を聞いたかの?キース。』
じぃさんは、タイミングを見計らって静かに話し出した。
「蜜と混ざり合う露は、怪我や病気に少し効くとハルカに聞いたが?」
『うむ。効果があるのは「蜜」なんじゃよ。ここの小さな花たちには、あれが精一杯じゃが…』
そうなのか、と納得しつつ、じぃさんの言葉を待った。
ハルカは気持ちが落ち着いたのか、自分の服の袖で涙を拭う。
コンも涙は止まりかけたものの、自分では涙が拭けずに、俺の肩に涙をグリグリと押し付けた。
『エウロパの奇跡は、エウロパの「涙」とも言われておった。その山頂で、例のその日だけな、その月の光を浴びて咲く一輪の花があるそうじゃ。その蜜をそう呼んだ…』
「花の、蜜か…」
『あぁ。飲んだ者の想いを叶えるやら、絶対的な力を手に入れるやら、願いが叶うやら…、効果は知らんが人々の争いの元でな?』
争いか…。
起きるだろうな。
自分に強い力を得る為に、他人を思いやらない人間を俺は過去に見た。
『大昔、とある牧師に頼まれてな?その山への道は、わしが守っているんじゃよ。次第に人は忘れていったがな?』