記憶 ―夢幻の森―
本当に、
娘想いな良い人たちだと思う。
砂漠時代、
俺にも両親はいたが、早くに亡くなった。
父親は城に遣えており、家庭よりも国を、王を、仕事を大切にする人だった。
母親は、俺を可愛がり二人分の愛情をくれたが、どこかいつも寂しそうな背中をしていた。
父を尊敬もしていたが、
母に寂しい想いをさせている父を、憎んでもいた。
しかし、
ハルカの両親は、俺の見てきた家庭とは違うものを築いていた。
温かい、安らぐ、
二人の作り上げたあの食卓で、少しでも一緒の時を過ごせて俺は幸せを知った。
二人の顔を、
この瞳に焼き付ける。
もう…、
『会えないかもしれない』
俺は不思議とそんな感覚に襲われ、二人に深く感謝した。
でも、口には出来なかった…。
「……行くか。」
「うんッ!」
『おぅッ!』
ハルカは何度も家を振り返りながら、両親に手を振る。
道端の黄色いランプに照らされた白い石畳の道を、俺は一度も振り返らずに進んだ。
フィネルの里の入口まで来て、初めてここを訪れた時の様に里を一望した。