記憶 ―夢幻の森―
『…なぜ、警戒する…』
泉の精は俺にそう訪ねた。
「試される、と。そう聞いているからな…。」
俺は、フッと鼻で笑うと無理矢理に頬を引きつらせた。
『…もう「試した」…私は、危害は加えん…』
「…?」
俺たちは何もしていない。
何もされていない。
「…どういう事?」
ハルカが俺の肩から顔を覗かせて首を傾げると、泉の精は水の体を反転させながら滝を指差した。
『…道を見つける事…』
「あぁ!キースが見つけたんだよ!じゃあ、通ってもいいの?」
『…よい…しかしエウロパの山は神聖な場所…』
泉の精は、今度はこちらに向き直り、泉の水面を指差した。
『…この泉に裸で浸かり…身を清めなくては通さん…』
そう言うと、水の体が徐々に水面へと帰っていく。
「…おい、待て。色々聞きたい事が…」
『…私の役目は…身を清めさせる事…』
水面は、穏やかに元の姿へと戻った。
「…いなくなっちゃったね…?」
「あぁ…」
俺は舌打ちをした。
進めば分かる、そういう事なのか?
ワン!
『俺、入んないぞッ!入んないからなッ!』
コンは、イヤイヤと首を振りながら、動かない事を決め込んで地面に伏せた。