僕と君との境界線【BL】
『不在』だという、ドアノブにかけられた文字を目に、僕は保健室に逃げ込んだ。
医薬品のツンとした匂いが、鼻孔を刺激する。
白いシーツに包まれ、清潔に整頓されたベッドが5つ。
カーテンは完全に外からの光を遮断し、冷たい空気が保健室を満たしている。
人の気配は、当然、感じられない。
僕は、どっとあふれ出た汗を拭いながら、一番、壁側にある5つ目のベッドに腰を降ろした。
「あー…逃げてしまった…」
桃井は、僕の姿を見ただろうか?
いや、見てないはずだ…。
「戌井との会話で…僕の事なんて見てないんだろうな…」
がっくりと肩から力が抜けていく。
本当に――…気持ちを伝えるどころか、まともに顔すら見れないんじゃ…この先、僕、どうしたらいいんだよ…。