僕と君との境界線【BL】


『不在』だという、ドアノブにかけられた文字を目に、僕は保健室に逃げ込んだ。


医薬品のツンとした匂いが、鼻孔を刺激する。


白いシーツに包まれ、清潔に整頓されたベッドが5つ。

カーテンは完全に外からの光を遮断し、冷たい空気が保健室を満たしている。



人の気配は、当然、感じられない。

僕は、どっとあふれ出た汗を拭いながら、一番、壁側にある5つ目のベッドに腰を降ろした。



「あー…逃げてしまった…」


桃井は、僕の姿を見ただろうか?

いや、見てないはずだ…。



「戌井との会話で…僕の事なんて見てないんだろうな…」


がっくりと肩から力が抜けていく。

本当に――…気持ちを伝えるどころか、まともに顔すら見れないんじゃ…この先、僕、どうしたらいいんだよ…。



< 74 / 117 >

この作品をシェア

pagetop