BLACK PRINCE
俺に気付いたその子が、目線を上げて照れくさそうに笑い、目線を外す。
元々背の低いその子は、さらにヒールのないぺたんこムートンを履いていただけに、俺よりかなり小さい。
「どこ行くんですか?
お話聞いて欲しいんですけど!」
「え〜帰るもん。」
得意気な返事を聞いた俺は、心の中でガッツポーズ。
「じゃあ、アドレスだけでもいいから教えて!!お願い!!」
顔の前で手を合わせた。
すると女の子は、ゆっくり立ち止まった。
相変わらず照れくさそうでも得意気な顔をして。
「アドレスだけだよお。」
「やった!嬉しい!ありがとう!」
赤外線で受信した女の子のデータを見て、定番。名前を誉める。
「クミ!?って、名前まで可愛いし!」
女の子は、嬉しそうに笑う。
ソッコー送るから!と言って、軽く手を振ると次なる客を探す。
さっきのは失敗。
店に連れて行かないと意味がない。
俺は、クミに付いて改札まで来てしまったために元いた位置に戻ろうと方向転換した。
――――……………‥‥。
俺の目に一人の女が入ってきた。
何気ない景色。
別に、女が一人、柱にもたれかかっているだけのこと。
俺は立ち止まって、そいつをただボーっと見ていた。
CHANELの鞄とピンク色のファイルを持って、下を向いて動かない。
真っ黒のリアルファーコートが、いかにもお嬢様だと思わせた。
一人のオッサンが同じく、その女を見ていたのに気付いた俺は慌てて、女に声を掛けた。