BLACK PRINCE



――――……その瞬間、腕が伸びて


『――ちょっ…離』


と言った女の手首にあるアザが目に入った。



――――…一瞬、時が止まったんじゃないかと思った。


母さんの手首にも、こんなアザがあった事が頭をよぎる。



それはきっと…


暴力から必死に逃れようとするのを押さえつけられた証。




――――『離せよ!』


低い声が耳に入り、はっとした。



腕がその声の主に締め付けられているのに気がついて、


『―――痛っ!誰だよあんた!』



と、手を振りほどいた。



えらくラフな格好のその男は、俺を目線で見下した。



かと思うと女の腕を強引に引き
ギラギラ光るネオンと逆方向に消えていった。



途中、女は俺の方を何度も振り返った。


まるで、助けを求めるかのように―――……


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