BLACK PRINCE
……俺は、しばらく動けないでいた。
あの女、あの男に暴力を振るわれているのか?
あの目は何なんだ……
怯えたような、泣き出しそうな…
ふと見ると、さっき女が持っていたピンクのファイルがあった。
俺はそのファイルをすぐ拾い、中を見た。
数十枚ある中の一番最初の紙。
―domestic violence―
インターネットの一ページを印刷したような文字。
の下にメモ書きがあった。
“余計なことだって分かってる。
でも手遅れになる前に気付いて。
アンナが受けている暴力に、
意味なんてない。”
これはきっと、あいつを心配した友達か知り合いが渡したんだろう。
気付いてって書いてあるけど、
あの女は気付いているはずだ…
――――……
ガチャ
――パタン
暗くて冷たい空気の漂う部屋に帰宅すると
風呂に入り、水片手にテレビを点けた。
固いシングルベッドに倒れこむように座り、あの女のことを思い出していた。