囚われの姫君

さて帰るか。

塾の授業も終わり、ぞろぞろと教室から出て行く生徒。

約2キロの道のりを自転車で通う。

話し相手がいないとつまらない。

1本目の交差点。

いつもは目に留めない。

だって学区じゃないから。

知り合いもいないはずだ。

「おーい!山岸―!」

誰かあたしの名前を呼んだ?

いつからあたしは有名になったんだよ。

空耳に決まっている。

次の交差点。

「よっ!」

やってきたのは塾も学校も同じ男子。

たまに一緒に帰ったりしている。

もう帰ったと思っていたのに。

後ろにはさっきの声の主がいた。

親友の片想いの人。

あたしとは普通に仲がいい。

とその親友の隣人(クラスの席が)。

あたしとはしゃべったことがない。

彼の名前は楓真(ふうま)。

通称ふうちゃん。

憧れの先輩の弟。

しばらくするとあたしとふうちゃんだけになった。

初めてとは思えないぐらいたくさん話した。

頭はあまり良くないけどスポーツを頑張っていること。

高校に行ったらやりたいこと。

あたしは気付かないようにしていたのかもしれない。

彼に抱く感情が変わっていたことに。
< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop