気まぐれ猫
 家に帰ると、親父が何やら嬉しそうにアルバムを持って、俺を出迎えた。
「優希!懐かしいもん見つけたぞ!」
「なっ、何だよ」
 親父は俺の手を引いて、リビングまで行き、手に持っていたアルバムを開いた。
「母さんだ、母さん」
「母さんの写真なんてそこにも飾ってあるだろ」
「違う違う。これ、病院で撮ったやつでさ、他の患者さんとかもいて、すごく楽しそうでさ」
 見ると、母さんが入院していた頃の写真がいっぱいあった。
「この頃はもう末期で、父さん達なんて落ち込みまくってたのに、母さんはいつも元気で写真撮ってくれーってな」
 親父が写真を見ながら、しんみりと、一つ一つを思い出すように話し出した。
 そんな親父を見てか、あの頃の事を思いだしてかわからないが、なんだか寂しくなってきた。
「ほら、この子。覚えてないか?母さんの隣のベッドに入院してた子の妹さん。お前たち、仲良くてな。病院の中じゃ、しょっちゅう一緒にいたんだ」
 そんな俺をお構いなしに、親父が見ろと言わんばかりに俺の服を引っ張って、写真を指さしている。
「えっ……。これ……」
 今よりもだいぶ小さくて、髪もかなり短いが、どことなく面影が残っている。
「確か名前が……ゆう……りちゃんだったかな?お前、ずっと『ゆうちゃん』って呼んでたな」
 俺は、今の俺達でそれを想像して、寒気がした。
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