気まぐれ猫
 病室へ向かう途中、自分はどうしてそこへ向かっているんだろうかと考えた。
 ―もし猫に会ったらどうする?
 ―もしかしなくても俺、ストーカー!?
「何してんの」
 そんな事を考えているうちに、聞いたことのある声で声をかけられ、俺は顔を上げた。
「……」
 猫だ。花瓶の水を換えに来ていた猫と出くわしてしまったのだ。
「ス……」
「トーカーじゃないから!」
 猫はあっそ、と特に興味もない様子で病室へ戻っていった。
 飼い猫に捨てられた気分だ、とバカなことを考えながら、何をしたらよいのかわからずにボーっと突っ立っていると、今しがた猫が入っていった病室のドアが勢いよく開いた。
「入れば」
 猫からのいきなりの誘いに戸惑いながらも俺は病室に入った。
 病室は六人部屋で、賑やかな声が聞こえてきた。
「……優希くん?」
 その賑やかな声に紛れて、誰かに呼ばれる声がした。
 声の方を見ると、男の子(と言っても俺よりも年上な感じ)が俺に手を振っていた。その横に猫がいた。
 猫のお兄さんだ、俺はすぐにわかった。 ただなんとなく、この懐かしい感じはそんな気がした。
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