気まぐれ猫
 「学校に行こうと思うんだ」
 全く予想もしていなかった発言に一瞬、今、この状況は夢なんじゃないかと思ってしまった。
 俺は日曜日の今日、猫が病院から帰るのを見計らって、お兄さんのお見舞いに来た。
「……は?!」
「まだ夕璃には言ってないんだけどね」
 聞くと、もう治る見込みはほとんどないらしい。それなら、好きなこと、やってみたい事を目一杯やりたいと言う。
「先生は今よりも進行が早くなるのは目に見えてるって、あんまり乗り気じゃないんだけどね」
 ハハッとお兄さんは笑った。
「笑い事じゃないですよ」
 自分の事のはずなのに、まるで他人事のようだ。
「猫……三崎には言った方がいいんじゃないですか?」
「んー……。自分の事だろ?自分で決めたいんだ。自分で決めた事をしたいんだ。わかるかな」
 誰に何を言われようとやると、そう言っているような空気だった。
「……でも……三崎は反対すると思いますけど……」
「わかってくれるよ。夕璃だもん」
 お兄さんの目は誇らしげだった。
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