気まぐれ猫
 それから俺たちは終始笑っていた。たまに猫が怒ったり、呆れたりしていた。
 三人は先に帰って、俺たちはその後しばらくお兄さんと話してから帰った。
「兄貴がさ、いつだったか言ったことがあるんだ」
 病院を出てしばらく黙っていた猫が唐突に話し始めた。
「だんだん発作が酷くなってきた頃だったかな。あたしに言ったんだ。人は死ぬことがわかってるから何でも一生懸命やって、生きるんだ。だから人は死ぬ時に後悔しないために生きるんだって。でも僕は何も出来ない。同じように死ぬことがわかっているのに、ただ死ぬのを待つだけなんだって。あたしそれ聞いた時、何も言えなかった。悲しかった」
 俺は言葉が見つからなかった。
「……ごめん。つまんない話だったね。じゃっ、あたしこっちだから」
 猫は笑顔で帰って行った。
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