気まぐれ猫
 「兄貴もあたしもつまらない話が好きなんだ」
 猫と二人でお兄さんの病室を出ると猫が言った。
 俺は何の事を言っているのかわからず猫を見ていると、猫は笑った。その顔を見て、さっきのお兄さんの話だと気がついた。「聞いてたのか」
「ドアの外に立ってただけだからね。聞こえた」
 そっか。そう言って俺は黙ってしまった。
「……ありがとう」
 驚いた。まさか猫からそんな言葉が出るとは思わなかった。
「何だよ。これでも一応感謝してるんだ。あんたが来るようになってから兄貴もよく笑うようになって、学校にも行った」
 そうだ。お兄さんは学校に行った。死ぬために何かしたんだ。
「……きっと後悔はしないよ、兄貴も」
 そう言った猫の顔は誇らしげだった。
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