気まぐれ猫
 学校が終わると四人で夕璃の家に行った。
 夕璃の家は純和風の家だった。玄関は引き戸で、桜の木のある大きな庭があり、縁側もあった。
 俺たちは入っていいものか躊躇って、仕方なく塀から覗いた。
「何してんの」
 その声に驚いて振り向くと、夕璃だった。
「あ……いや……あの……」
「入れば」
 なんと言ったらいいかわからないでいると、夕璃がしびれを切らしたのか、俺たちを家にあげてくれた。
「夕璃ちゃん、お友達も来てるし、ちょっと休んだら?」
 奥からそう聞こえると夕璃が俺たちの所に来た。
「ごめん、いきなり……」
「いいよ」
 よく見ると、夕璃の目が赤く腫れていた。
「……兄貴に会っていく?」
 夕璃がそう言ってくれたので、俺たちはお兄さんの顔を見に行った。
 そのお兄さんを見ても、死んでるなんて信じられなくて、ただ眠ってるみたいだった。
 俺はそこから動くことができなかった。「優希、帰るぞ」
 祐輔の声がする。
「いいよ。三人だけ、先に帰りな」
「悪いな」
 みんなのやりとりは聞こえるが、本当にただ聞こえるだけだった。
< 41 / 45 >

この作品をシェア

pagetop