ヒワズウタ ~チヒロ~
残っていたビールを飲み干したユヅキさんは、前を向いたまま、
ゆっくりと、まばたきをした。
銀縁の眼鏡の内側で、
長い睫毛が、
ゆっくりと下がる。
その横顔は、酷く美しくて、
悲しくなって、私も前を見た。
これ以上、その横顔を見ていられなかったから。
どれくらい時間が過ぎたんだろう。
10秒?
10分?
夜の空気の中では、時間の流れなんて無意味に思える。
「明日、うちで、ゴハンでも食べようか?」
低くて、深いユヅキさんの声が、私の耳の内側を撫でる。
どうしてだろう。
涙が、止まらないのは。