誕生日には花束を抱えて【完】
<愛>


正平に旅行に誘われて最初は舞い上がっていたけれど。


……お母さんに、なんて言おう。


――友達と行く?


でも、家が隣りだからバレバレだよね。


正直に言うなんて恥ずかしすぎるし。


ああ、もう、どうしよ~。


なんて考えていたら。


「ただいま」


お父さんが、珍しく早く帰って来た。


そして、私を呼び、医師らしい冷静な口調で告げた。


「胃潰瘍がひどくて手術が必要なんだ。急だけど、明日入院することになった」


本当なら、明後日、2日前に受けた検査の結果を聞きに行く予定だったこと。


お父さんは普段から仕事第一で、勤務時間が過ぎても病院に残っているような人なのに、こんなに早い時間に帰って来たこと。


そして、お父さんの硬い表情――。


私は、嫌な予感を抱いた。

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