誕生日には花束を抱えて【完】
――ピンポーン。


静まり返った部屋に、チャイムの音がやけに大きく鳴り響いた。


玄関を開けると、


「ケーキ食べる?」


愛が、もみじ堂のケーキの箱を手にして立っていた。


「……なんで?」


オレに会いに来たってことは――。


カレシとはもう別れたのか――?


「だって、誕生日はいつも一緒でしょ」


そう言ってケーキの箱をオレに渡した時、愛はサトちゃんの靴に気づいてしまった。


「……カノジョ? ごめん……帰るね」


そう言った後も、愛はオレの顔をしばらく見つめていたが、


「……ほんとに……ごめんね」


深い声でつぶやくと、オレに背を向けた。




どんどん遠ざかる、愛の後姿――。


本当は追いかけたかった。


追いかけて、「好きだ」と言って抱きしめたかった。

< 166 / 200 >

この作品をシェア

pagetop